米国年金減額制度WEPとGPOの廃止決定(2025年1月5日)
2025年1月5日バイデン大統領がThe Social Security Fairness Actに署名しました。これにより米国年金減額制度のWEP(Windfall Elimination Provision 棚ぼた条項)とGPO(Government Pension Offset 政府年金オフセット)が廃止されることになりました。
WEPとは
Social Security Taxを給与から源泉徴収しない雇用主のもとで勤めた場合(政府系機関や米国以外の雇用主等)、年金額をその雇用に基づく老齢年金や障害年金の金額によって減額調整する規定のことです(米国大使館ホームページより抜粋)。
今回のWEP廃止対象には、日本の厚生年金受給者で、米国年金加入期間が40クレジット以上、30年未満の従来のWEP対象者も含まれます。
GPOとは
連邦政府や地方自治体の公務員年金を受け取っている人が配偶者や遺族として受取る米国年金を減額する仕組みです。具体的には、公務員年金の2/3が米国年金から減額されます。
現在WEPやGPOにより減額を受けている受給者の減額分は、2024年1月分の米国年金支給まで遡及して減額分が順次受給者に支払いされる予定です。それ以前に遡り減額分が支払いされることはありません。
米国社会保障庁(SSA)のホームページには、減額分の支払い方法は検討中で具体的スケジュールは掲示されていません。この法案は上院が2003年に政策に関する最初の公聴会を開催して以来、何十年もかけて議会に提出されてきましたが、やっと法案が承認されたわけです。
これまでWEP、GPOの擁護派はその法律により引き起こされている格差は認めていましたが、法律の廃止に伴う基金の財政負担の増加に危惧をしてきました。現に全受益者の約3%にあたる約210万人がWEPの、また80万人がGPOの影響を受けいるとのことです。
現時点ではSSAのサイトには現時点の必要な対応として「住所や銀行口座を最新のものにする以外、特に手続する必要はありません」といった非常に簡素な情報だけが載っています。具体的には「現時点では、現在の郵送先住所と、最近変更された場合は口座振込情報があることを確認する以外の措置を講じる必要はありません。ほとんどの人は、電話をかけたり、社会保障を訪れたりすることなく、個人の私の社会保障アカウントでこれをオンラインで行うことができます。www.ssa.gov/myaccount にアクセスしてサインインするか、アカウントを作成します。このページでは、実装に関する最新情報を継続的にお知らせします」とあります。
今回のWEP廃止以前に2023年4月SSA(米国社会保障庁)から2022年7月1日付けで、日本の国民年金はWEPの適用対象外であるという通知が発信されました。現在SSAはこれまでの誤適用に対する年金額の還付作業が継続中です。今回の改定とは別の還付作業ですから還付をうけていない方は引き続き還付請求を続けてください。
今回のWEPの廃止決定は日本の厚生年金受給者でWEPの減額を受けている人のみならず、将来日本の厚生年金と米国年金を受給予定でWEPの対象となる方にも大変な吉報です。
例えば2024年に62歳となった方のWEPによる最大減額金額が月額587ドルでした。この減額が無くなります。同時にその配偶者の方の年金額も増額されますのでご夫妻にとり大変なメリットとなります。
WEPとGPOが廃止されることで、年間88億ドルの年金支出が増えるとの予測があります。現在の試算では、2035年には米国年金の財源が不足して年金支払額の減額が始まるといわれております。今回のWEPとGPOの廃止は年金財源の不足を早めると予測する意見もあります。
米国社会保障制度は、基金のコストと歳入のシステムに変更を加えない限り、根本原因に対処するために退職制度再構築があるかも知れません。
最近日本の経済誌に米国の年金額は日本の年金額の2.8倍に相当するとの記載がありました。すっきりした米国年金制度の持続性を心より祈念する次第です。
海外年金相談センター 市川俊治
http://nenkinichikawa.org
E-Mail shunjiichikawa@gmail.com
年金について
引退後の生活を支える大事な収入源、「年金」。働いていたときに納めた「ソーシャルセキュリティータックス」や「国民年金」「厚生年金」は、ぜひ受け取りたいものです。しかし、年金は基本的には申請をしないと受け取れません。例えばアメリカにいて日本の年金を受給する場合、日本の年金事務所に請求をしなければなりませんし、また、日本にいてアメリカの年金を受給する場合には、 アメリカ大使館に申請をしなければなりません。
日本の年金の場合、年金請求が遅れても5年分はさかのぼって支給してもらうことができますが、それ以前の分は時効となってしまいます。ご注意ください。
ソーシャルセキュリティー(公的年金)とは

「ソーシャルセキュリティー(Social Security)」とは公的年金のことで、「ソーシャルセキュリティーナンバー(Social Security Number)」とは納税者番号のことです。アメリカの社会保障制度により、アメリカ市民やアメリカで合法的に働く外国人は、それぞれ就労期間中、税金を納めなくてはなりません。ソーシャルセキュリティーは、連邦政府への税金(Federal Tax)や州政府、地方政府への税金(State Tax, Local Tax)とは別に徴収されます。一般的に、ソーシャルセキュリティーを受け取るためには(支給有資格者となるには)、クレジットが必要とされています。また、ソーシャルセキュリティーは、傷害・障害、あるいや死亡の際、月々の手当てが労働者本人または家族に支給されます。
近年、人口の高齢化を受け、ソーシャルセキュリティーをもらえるようになる年齢が、徐々に上がってきています。1937年以前にお生まれになった方は、65歳でソーシャルセキュリティーの満額(100%)を受け取ることができますが、それ以降に生まれた方は徐々に年齢が上がり、1960年より後に生まれた方は、満額受け取れるようになるのは67歳になります。ご自身がいつから満額受け取れるようになるかは下記のリンクを使ってお調べください。
また、働きながらソーシャルセキュリティーを受け取る場合、一定金額以上の収入があると、ソーシャルセキュリティーが減額されます。2017年度の場合は以下になります。66歳以上(Full Retirement Age)の受給者への収入制限はありません。
| 年齢 | 年収限度額 | 年収限度額を超えた場合の ソーシャルセキュリティーの 差し引き額 |
|---|---|---|
| 66歳の誕生日まで | $44,880 | $3稼ぐごとに-$1 |
| 62〜65歳 | $16,920 | $2稼ぐごとに-$1 |
日本では、アメリカ大使館でソーシャルセキュリティー手続きをしています。詳しくは下記の「アメリカ大使館」のリンクをご覧下さい。
企業年金・個人年金
アメリカでは公的年金(ソーシャルセキュリティー)のほか、企業年金(401(k)プラン)と、個人年金(IRA:個人退職積立勘定)があります。企業年金・個人年金とも、個人(年金を受給する本人)がリスクを負い、年金積立金を管理・運用する点が共通です。
詳細については、企業年金ならびに個人年金を取り扱っている事業者(銀行、保険会社など)、ならびにお勤めになっている会社にお問い合わせください。
日本の年金

日本で国民年金・厚生年金に加入されている、もしくはいた方は、アメリカに居住していても年金を受給することが出来ます。特に2005年10月に、日米社会保障協定が締結されたことにより、両国の年金の受給資格の算定上、両方の国の加入期間を加算するとができるようになりました。
アメリカに住みながら日本の年金を受給するには、日本の年金事務所に申請をしなければなりません。その際、届け出なければならない書類の参考(個々のケースにより異なります)は以下になります。
| 1 | 裁定請求書(年金事務所にあります) |
| 2 | 戸籍謄本 |
| 3 | 住民票謄本(家族全員の続柄が記載されているもの) |
| 4 | 預金通帳 |
| 5 | 印鑑 |
| 6 | 海外に居住していた期間を証明する書類(領事館発行の在留証明書、パスポートなど) |
また、米国にお住まいの方は、日本の年金と言えども米国で申告することになります。しかしながら日本の年金を支給する際、一定の年金額以上の場合は所得税が源泉されます。そこで二重課税を避けるため予め「租税条約に関する届出書」を提出し、源泉税の徴収を止める仕組みになっています。届出書には、米国に住んでいることを証明するためIRSからForm6166を取り寄せ添付する必要があります。そのため、一定の年金額以上の方は、日本の年金の受給申請時及びその後3年ごとに当該書類を提出する必要があります。
米国の滞在証明書(Form 6166)の発行はForm 8802と呼ばれる書類に記入をし、申請料を添えて下記IRSの住所までお送りください。但し、年金額が65歳未満の場合70万円未満、65歳以上の場合120万円未満の場合は、日本で源泉徴収されないので、「租税条約に関する届出書」を提出する必要はありません。その場合は「租税条約に関する申立書」を提出してください。
Form 6166 の説明はIRSのウェブサイトをご覧ください。
https://www.irs.gov/individuals/international-taxpayers/form-6166-certification-of-us-tax-residency
日本の年金を申請される方へ
米国在留証明書の発行依頼用フォーム(8802)について
Form 8802 のダウンロードは こちら
Form 8802 のインストラクションは こちら
Form 8802 の説明はIRSのウェブサイトをご覧ください。
https://www.irs.gov/forms-pubs/about-form-8802
日本での勤務先を何回か変わられた方は、年金の申請のために揃える書類がさまざまで手続きが煩雑となるため、専門家に委任することも可能です。詳細についてお知りになりたい方は、高齢者問題協議会にお問い合わせください。
